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広島地方裁判所 昭和51年(行ウ)8号 判決

原告

株式会社川田鉄工所

右代表者

川田宇太郎

右訴訟代理人

内堀正治

右訴訟復代理人

秦清

被告

広島県海田県税事務所長

光本生二

右訴訟代理人

幸野國夫

右指定代理人

中川日出男

外三名

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、双方の申立

原告は、「被告が昭和四九年一〇月七日付でなした原告の昭和三五年五月一日から昭和三六年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和三七年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和三八年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和三九年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和四〇年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和四一年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和四二年四月三〇日までの各事業年度分の法人県民税及び事業税(以下法人県民税等と総称する)に係る過誤納金還付処分を取消す。被告が昭和四九年一二月一〇日付でなした原告の昭和四二年五月一日から昭和四三年四月三〇日までの事業年度分の法人県民税等に係る過誤納金還付処分(以下原告が還付処分とするもの全部を一括して本件還付と総称する)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告は、本案前の申立として、主文同旨の判決を求め、本案に対する申立として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  原告は、自動車部品の製作等を業とする株式会社であるが、原告の申立欄記載の各事業年度分の法人県民税等(但し原告が、地方税法五三条三項、七二条の三三第三項により、昭和四一年四月二五日付で修正申告した分及びそのうち法人事業税につき同年七月一一日付で一部更正された分)を、昭和四二年七月三一日から昭和四四年一〇月一日までに分納して完納した。

(二)  右法人県民税等の基礎となつた事業年度に係る法人税額等の更正について、原告は、昭和四二年四月二〇日訴外海田税務署長を被告として行政処分取消訴訟を提起したところ、昭和四七年三月二一日これを取消す判決が言渡され、昭和四九年七月一九日に確定したことにより、同税務署長は、右法人税の減額更正をなした。

(三)  これに伴い原告は、被告に対し地方税法五三条の二、七二条の三三の二第二項により、前記法人県民税等につき更正の請求の特例に基く更正の請求をしたところ、被告は同年九月二日付で減額更正をしたうえ、原告に対し同年一〇月七日及び同年一二月一〇日付で本件還付をなしたが、右に係る還付加算金(以下単に加算金という)のうち、昭和四四年四月九日(地方税法改正の日)以降(乃至は納付の日の翌日以降)更正のあつた日の翌日から起算して一月を経過する日である昭和四九年一〇月二日までの期間については、これを除算した。

(四)  ところで、そもそも原告のなした前記修正申告は、法人税額等の更正に伴う義務的なものであること、国税である法人税に関しては納付の日の翌日から加算金を付していること、昭和五〇年三月三一日法律第一八号により改正された地方税法一七条の四第一項は、本件のような場合納付または納入のあつた日の翌日から加算金を付す旨明確にしていることと対比し、本件還付においても、右改正前の地方税法一七条の四第一項四号、同法施行令六条の一五第一項二号を適用して、納付または納入があつた日の翌日から起算して一ケ月を経過する日の翌日から加算金を付すべきである。すなわち、同施行令六条の一五第一項一号の「更正の請求に基づく更正」の中には、原告がなした前記「更正の請求の特例に基づく更正」も含まれると解するのである。しかるにこれに反し、前記の如き除算をして加算金を計算した本件還付は違法であるので、その取消を求める。

三、被告の本案前の主張

被告は、原告の法人県民税等を減額更正したことにより当然に発生し返還義務を負うに至つた過納金を原告に還付したもので、右還付自体は、抗告訴訟の対象たる行政処分ではない。

仮にそれが行政処分にあたるとしても、本訴請求が認容され本件還付が取消されることにより、還付金及び加算金を受領すべき法律上の原因が遡及的に消滅するため、原告は不当利得返還義務を負うに至るだけで、行政事件訴訟法三三条にいう判決の拘束力は、加算金の増額にまでは及ばないから、原告は何ら法律上の利益を受けるものではなく、訴の利益を欠くといわざるをえない。

したがつて、いずれにしても本件訴は不適法として却下されるべきである。

四、被告の本案に対する答弁

請求原因(一)の事実は、法人県民税等の分納期間を除き認める。同(二)の事実は認める。同(三)の事実のうち、原告が更正の請求なしたことは否認し、その余は認める。減額更正は、被告が職権で行なつたものである。同(四)は争う。

五、被告の本案前の主張に対する原告の反論

本件還付は行政処分であり、またそれが判決で取消されれば、被告は、判決の趣旨に従つてあらためて適切な還付を行なわなければならないのであるから、原告は、本件還付の取消を求める法律上の利益を有するといえる。

六、証拠関係〈省略〉

理由

一原告の本件訴は、要するに、被告のなした法人県民税等の減額更正により生じた過納金の還付について、これを抗告訴訟の対象となる行政処分であるとして、右還付に係る加算金の計算の瑕疵を理由に右還付自体の取消を求めるものである。

そこでまず右訴の適否について検討するのに本件のような減額更正の結果生じた過納金の還付においては、還付を受けるべき者からの還付請求または還付申請に対し、所轄行政庁の処分行為がなされて初めて具体的な還付請求権が発生する還付金(国税についていえば所得税法一四〇条一項、五項、法人税法八一条一項、四項等、地方税についていえば地方税法七三条の二の八項、一二二条の三の一項、七〇〇条の二一の二の一項等)の還付の場合と異なり、減額更正がなされたとき、すなわち更正通知が相手方に送付されたときに、当然に還付請求権が発生するものであり、行政庁による特別の確定行為を必要としない。したがつて本件において、仮に被告が原告に還付した額(加算金も含め)が、正しく計算された額より過少であつたとした場合、それは反面として、事実上現実の還付額を超えては還付しない旨の被告の意向を明らかにしたことにはなるが、さりとてこれにより、原告が減額更正により当然に取得した過納金の還付請求権の存否ないし範囲は、何ら影響を受けることはない。もし現実の還付額が過少であるとすれば、原告としては、さらに広島県を相手方として正当額との差額分の給付請求(過納金還付請求)訴訟を提起すれば足りるのである。

以上のとりおり被告のなした本件還付自体は、原告の権利義務その他法律上の地位に何ら具体的影響を与えるものではないから、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分ということはできない。

二よつて原告の被告に対する本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(森川憲明 谷岡武教 岡田雄一)

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